篠田桃紅の略歴　(Shinoda toko)

1913年3月28日	中国大連に生まれる。本名：満洲子
1940年	銀座鳩居堂で初めての書の個展を開催する
1947年	この頃より文字に囚われない抽象的な作品を制作しはじめる
1954年	サンパウロ市400年祭の日本政府館に壁書を制作
1956年	渡米し、主にニューヨークを拠点に２年にわたり活動、全米各地およびパリで個展を開催
1963年	山梨県富士山麓に山荘を建て、以後、毎年一定期間ここで過ごす
1974年	増上寺のために壁画と襖絵を制作
1979年	第27回日本エッセイスト・クラブ賞受
2003年	関市立篠田桃紅美術空間開館
2021年3月1日	死去。享年107

日本の租借地であった関東州大連で生まれた篠田桃紅は5歳頃から父親に書の手ほどきを受けました。1950年から数年間、書道芸術院に所属し前衛書の作家たちと交流しましたが、1956年に渡米。ニューヨークで抽象表現主義が盛んだった時期に、文字にとらわれない新しい墨の造形を試み、これが「墨象」と呼ばれる作品となります。アメリカ滞在中にいくつかの個展を開き高く評価されましたが、乾燥した気候が水墨に向かないことを感じ、1958年に帰国。その後、日本で制作を続け、作品を各国で発表しています。和紙に墨や金箔、銀箔、金泥、銀泥、朱泥といった日本画の画材を使い、限られた色彩で多様な表現を生み出しています。

海外では昭和30年代から高く評価されていましたが、日本国内では同様の評価を得ることはできませんでした。しかし、2000年代に入り、新潟県新潟市や岐阜県関市に彼女の名を冠するギャラリーが開館。昭和50年代から東京のザ・トールマン コレクションを通じて国内外のコレクターが増え、メトロポリタン美術館をはじめとする海外の名だたる美術館に作品が収蔵されるようになりました。

篠田桃紅の作風

篠田桃紅の作品は、そのシンプルさが際立っています。彼女の作品は、墨色を中心に、朱や金、銀といった限られた色彩が用いられ、無駄を削ぎ落とした美しさが特徴です。その中で、墨の濃淡やかすれ、余白の使い方が独特の表現を生み出しています。作品のタイトルはほとんどが英語であり、それには篠田の特別な意図が込められています。彼女は題名やキャプションを付けることなく、鑑賞者が自由に作品を感じ、そこから広がる想像を大切にしてほしいと考えていたのです。

篠田桃紅は生涯独身を貫き、その生き方もまた作品に反映されています。普段から和服を身にまとい、四季折々の自然の移ろいに心を寄せながら、墨と和紙に対する深い愛情を持って制作を続けていました。都会の喧騒から離れ、心を休める場所として、彼女は富士山のふもとに山荘を建てました。この山荘では、訪問客や仕事相手から距離を置き、自然の中で静かに時を過ごし、自らの内面と対話しながら作品を生み出していました。彼女にとってこの場所は、創作活動における重要な拠点であり、都会の忙しさから解放される場所でもありました。

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