樂覚入の略歴（Raku kakunyū）

1918年	樂家13代・惺入の長男として京都市に生まれる
1940年	東京美術学校彫刻科を卒業
1941年	兵役により満州へ出征
1945年	終戦後に復員。父惺入の病没により、樂家14代吉左衛門を襲名
1960年	京都伝統陶芸家協会の設立に参加
1976年	国の無形文化財記録保持者に選定。財団法人樂美術館を設立
1978年	樂美術館が開館
1980年	死去

京都の楽家といえば、初代長次郎から続く茶の湯陶器の名門。そんな家に生まれ、戦後の激動期を生き抜いた陶芸家が十四代・樂吉左衛門こと樂覚入です。
覚入は、十三代惺入の長男として京都に生まれ、1935年には東京美術学校（現在の東京藝術大学）彫刻科に進学。彫刻家を志していた彼は、五年後に卒業しますが、時代は戦争へと突き進み、1941年には兵役で満州へ出征することになります。
そして、1945年。終戦とともに帰国した覚入を待っていたのは、父・惺入の訃報。帰還前の1944年に病没していたため、樂家を継ぐことは彼にとってまさに“独力での再出発”となりました。

十四代を襲名した覚入は、樂家歴代の作品研究を行いながら、自らの作陶の道を模索します。とくに共鳴したのが、樂家三代・道入の作風。視覚に訴える光沢釉薬や装飾的表現を大胆に取り入れた道入の姿勢は、覚入自身の志向とも重なりました。

美術学校で培った彫刻の感性をもとに、彼は茶碗という器を、口縁から胴部、高台までを有機的に構成された「ひとつの造形物」として捉えました。黒楽の骨格の強さ、赤楽の釉薬の美しさ、そして削りによる緊張感のあるフォルム。それらはすべて「侘び」や「用の美」といった茶の湯の精神と、現代造形の間で彼なりに追求した美でした。

覚入はこんな言葉も残しています。
「現代は茶道が隆盛の時代。しかし大寄せ茶会と大ぶりな茶碗の流行はいかがなものか。茶碗から発信できるメッセージとして私は、形を引き締める箆削りを大切にしている。それは小人数の茶事に茶道の本来の姿があるように思うから」
この言葉の中には、伝統に寄りかかることなく、「今」を生きる茶碗を作ろうとする強い信念が込められています。

その活動はやがて公的にも認められ、1976年には国の無形文化財記録保持者に選ばれ、同年には樂家の歴史を紹介するための財団法人樂美術館を設立。1978年には樂美術館も開館し、彼の理念は現在まで受け継がれています。

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