岡野法世の略歴（Okano hosei）

1937年	東京都に生まれる
1959年	武蔵野美術学校卒業。美濃の陶芸家・松山祐利に師事
1961年	京都の陶芸家・岩淵重哉に師事
1965年	東京都福生市に築窯、独立して本格的に作陶を開始
1966年	伝統工芸新作展に初入選
1967年	日本伝統工芸展に初入選
1968年	東京都西多摩郡日の出町に移窯し、登窯を設置
1983年	レーガン大統領訪日に際しての贈答品、信楽大壷・大皿を製作
1992年	ゴルバチョフ元ソ連大統領訪日時の贈呈記念品を制作
2011年	日本橋三越本店で個展

東京都に生まれた陶芸家・岡野法世氏は、昭和2年生まれ。武蔵野美術学校を卒業後、美濃の松山祐利氏、京都の岩澤重氏という二人の師に学び、陶芸の本質を厳しくも温かく教わりました。彼の作陶人生は、信楽焼を柱としながらも、実に多彩な試行錯誤の積み重ねから成り立っています。

「最初から信楽一辺倒だったわけではないんです」と語る通り、当初は黒釉、白釉、灰釉などにも積極的に取り組んでいました。転機となったのは、美濃の古窯跡で見つけたブルーグレーの掛け袖が美しい破片との出会い。これが薪の灰による自然の働きと知り、自然釉の奥深さに心を打たれたのです。また、丹波の蛇窯の焼成法、信楽・黄瀬の土との出会いも重なり、やがて彼は「信楽」という焼物の土と火の魅力にすべてを賭けるようになります。

1965年、東京都福生市に自身の窯を築き、作陶活動を本格化。後年には西多摩郡日の出町へ移り、周囲を自然に囲まれた地に登窯を築窯。通算5基に及ぶ登窯を操り、薪で焼く伝統的な技法を守りながら作品を生み出してきました。焼成温度は1300度を超え、器物の上で薪を燃やして灰をふんだんに降らせるという独特の手法。窯詰めにはなんと2週間、1日8時間労働で二部屋分を仕上げるという徹底ぶりです。

「信楽なんて焼けばいいんだろう」と思われがちだが、実際はその逆。景色の出し方、釉肌の色合い、窯変の妙……すべては計算と観察、膨大なデータと経験に裏打ちされています。美しい窯変は、偶然の結果ではなく、長年にわたる蓄積と工夫の賜物なのです。

ことに茶碗作りには強いこだわりを持ち、焼成後の削りにも細心の注意を払います。茶山の引っかかりや茶乳（茶が揺れる感触）をなくすため、たった5点の茶碗を仕上げるのに丸2日を費やすという丁寧な仕事。自ら「茶碗は難しい」と語るその裏には、真摯に土と向き合い続ける姿勢があります。

また、数寄者・小森松の「土の子窯」で40日間茶陶作りを手伝った経験も持ち、茶の世界に対する造詣も深い。茶陶に向かないとされがちな信楽焼を、艶やかな侘びの世界に高めた手腕は、まさに独自の境地といえるでしょう。

その功績は国内外でも評価され、1983年にはレーガン米大統領訪日時の記念贈呈品を、1992年にはゴルバチョフ元ソ連大統領訪日時の贈呈品も手がけました。福生市立中央図書館や日の出町役場への陶壁制作など、公共施設での仕事も多く手がけています。

現在は日本工芸会の正会員として活動し、長年にわたり日本の焼物文化を支え続けてきた岡野法世氏。その作品は、厳しくも柔らかく、炎と灰が描き出す自然の景色を宿し、現代の数寄者たちの心をつかみ続けています。

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