十代 大樋長左衛門の略歴（Ōhi chōzaemon）

1927年	九代大樋長左衛門(1901〜86)の長男として金沢市に生まれる。本名：奈良 年郞
1949年	東京美術学校（現東京藝術大学）工芸科卒業
1950年	「日展」で初入選
1958年	日本陶磁協会賞受賞
1976年	金沢市文化賞受賞
1985年	「峙つ」が日本芸術院賞受賞
1986年	十代大樋長左衛門を襲名
2005年	金沢市名誉市民
2011年	文化勲章受章
2023年10月17日	死去。享年95。従三位に叙される

金沢の風土とともに育まれた茶陶の名窯――それが大樋焼（おおひやき）です。
その歴史は古く、加賀藩の御用窯として、茶の湯文化と深く結びつきながら発展してきました。はじまりは寛文6年（1666年）。加賀藩五代藩主・前田綱紀が、京都から招いた裏千家四世・仙叟宗室と、樂家四代一入の門人・土師長左衛門が、20年もの歳月をかけて金沢・大樋村に築いたのが大樋焼の開窯です。

初代・長左衛門が用いたのは、樂家から譲り受けたとされる飴釉。柿色から朽ち葉色、暗褐色まで多彩な表情を持つこの釉薬が、大樋焼の代名詞とも言える魅力を生み出しました。
しかも、その素地には、金沢・田上の蓮根畑から採れる粘りの強い陶土が使われ、成形は手捏ねと箆削り。松割木を焚く「桶窯（おけがま）」で焼成されるという、素朴ながらも確かな技が今日まで受け継がれてきたのです。

そんな重厚な伝統を現代に引き継いだのが、十代 大樋長左衛門です。
昭和2年に金沢に生まれ、東京美術学校（現・東京藝術大学）の工芸科を卒業。日展では早くから頭角を現し、襲名前からすでに「現代陶芸界の重鎮」として知られる存在でした。

彼の仕事は、茶碗や壺だけではありません。全国40か所以上に陶壁を手がけるなど、大樋焼の可能性を大きく広げた作家でもあります。代表作『峠（そばだ）つ』は、鋭いフォルムが印象的な花三島の壺で、日本芸術院賞を受賞しました。

平成2年には大樋美術館館長に就任し、やきものの魅力を広く発信。その後は金沢学院大学美術文化学部の学部長・教授として後進の指導にも力を注ぎました。
ロチェスター工科大学名誉博士、日本芸術院会員、日展常務理事、現代工芸美術家協会理事長、石川県美術文化協会理事長など、数々の役職を歴任し、金沢を拠点に日本陶芸界を牽引する存在となったのです。

伝統に根ざしながらも、新しさと自由な造形感覚を忘れない――
それこそが、十代大樋長左衛門の茶碗に込められた美意識であり、大樋焼の“今”を象徴する精神なのです。

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