伊藤東彦の略歴　(Itō motohiko)

昭和14年（1939年）福岡県生まれ

東京芸術大学大学院 陶芸専攻科修了

富本憲吉・松井康成に師事

昭和46年 茨城県に築窯、独立

平成11年（1999年）紫綬褒章受章

日本工芸会正会員、日本伝統工芸展入選多数

柔らかな布目に宿る自然の恵み――伊藤東彦の陶芸世界

福岡県出身の陶芸家・伊藤東彦（いとう・もとひこ）氏は、東京芸術大学大学院で学び、藤本能道・松井康成という陶芸界の巨匠たちに師事した人物です。紫綬褒章受章者としても知られ、日本伝統工芸展や武蔵野展などで数々の受賞歴を誇る、まさに現代工芸の第一線を担ってきた作家のひとりです。

そんな伊藤氏の代表的な技法といえば、「布目（ぬのめ）技法」。古くは器の成形時に布を使った痕跡に由来するこの布目を、彼はまったく異なる発想で昇華させました。

「油絵のように、土のキャンバスに絵を描きたい」。
その思いから、器の表面を滑らかにサンドペーパーで整え、素焼きした器に蚊帳の生地を置いて白化粧土を塗布。蚊帳を剥がすことで布目を器表に写し取り、そこへ下絵用の色土で絵付けを施していくのです。

その色土のバリエーションは実に500色以上にものぼるといいます。けれど伊藤氏は「自然の色にはかなわない」と語り、描くモチーフにも自然の命があふれます。
芒（すすき）・沢瀉（おもだか）・筍・山葡萄・団栗（どんぐり）・唐辛子・大豆・葱――どれも、日々の暮らしの中で「育て、食べ、楽しむ」自然の恵みたち。

「その喜びや驚きが、絵になるんです」と笑うその横顔には、自然と暮らしを等しく愛する作り手ならではの温かさがあります。

こうして生まれた器は、釉をスプレーでかけて本焼きし、さらに上絵付けで完成させます。洗練されたフォルムに、和の色調と構図が加わり、どこかモダンで洒脱な雰囲気をまといながらも、茶室や古民家の一角にもしっくりと馴染む古雅な情趣を宿しています。

伊藤東彦の作品は、器というキャンバスに自然の息吹を映しとった詩的で暮らしに寄り添う美。静けさとユーモアが同居した作品は、日常のなかにほっとする瞬間をもたらしてくれます。

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