井髙洋成の略歴（Itaka yosei）

1934年	東京都に生まれる
1980年	ドイツ・ケルン市で個展を開催
1982年	千葉県四街道にからたち窯を築窯し、陶芸教室を開始
1987年	NHK教育テレビ「陶芸入門」講師として出演
1988年	千葉市に若松窯を築窯
1999年	目黒区美術館にて「帰山窯の百年展」開催

東京都に生まれた陶芸家・井髙洋成氏は、まさに陶芸一家に育ちました。父は茶陶界で名を残した初代・井髙帰山、母は日本初の女流陶芸家といわれた井髙芳尾、そして兄は東京・目黒の帰山窯を継ぐ二代目。そんな芸術の空気に包まれた家庭で育った洋成氏は、自然とやきものの世界に足を踏み入れます。

とはいえ、兄がすでに磁器の道を継いでいたことから、洋成氏は自らの進むべき道を模索し、唐津、猿投（瀬戸）、信楽と様々な土を試していくなかで、ついに「これだ」と感じたのが備前の土でした。粘土質ながら非常に硬質でキリッと締まり、さらに赤松の灰が自然に降りかかることで、釉薬とは異なる多彩な表情を生み出す――その魅力に心惹かれたのです。

彼の備前焼を焼く「若松窯」は、千葉県の雑木林の中にあります。電気も水道も通っておらず、自家発電と井戸水でまかなうという徹底ぶり。窯は長さ3メートルほどのシンプルな「平安穴窯」。これは分焔やロストルのない原始的な構造で、三昼夜をかけて年に3回のみ焚かれます。このストイックな焼成が、備前ならではの力強くも静謐な表情を作り出しているのです。

洋成氏のもうひとつの顔は深い茶の世界への理解と実践にあります。茶室が二席あるような家で育ち、少年期から茶道を学び、のちには流派を超えて集う茶の研究会にも参加。自ら茶杓を削り、茶籠を編み、茶碗や茶入を作る中でも「いかに茶人にとって使いやすいか」を何よりも大切にしています。

とりわけ彼の茶入の内側に施された漆塗りは、茶の下りを良くするための工夫で、実用性と美しさを両立させた名品といえるでしょう。器の高台、バランス、見込み――すべてに茶の精神が息づいており、使い手の心を自然と穏やかにするような風格があります。

また、「温故知新」という言葉を地で行く人柄で、旅先では必ず骨董店に立ち寄り、韓国の三島茶碗や蒔絵の入った銅製の茶道具などからも学び続けてきました。陶芸とは単なる技術ではなく、「心の道楽」だと語るその姿勢には、長年土と向き合ってきた作家ならではの深い哲学がにじみ出ています。

1980年代には千葉県四街道や八王子に窯を構え、陶芸教室を通じて後進の育成にも尽力。1989年には目黒区美術館で「帰山窯の百年展」を開催し、家系の芸術的営みをひとつの節目として結実させました。また、1990年にはNHK教育テレビ「陶芸入門」の講師を務め、広く一般にも陶芸の魅力を伝えました。

自然とともに生き、土と語り合い、茶を理解し、古きものに学ぶ――井髙洋成という作家の仕事には、日本のやきものの本質が、静かに、しかし確かに宿っています。

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