原田拾六の略歴（Harada shūroku）

1941年	岡山県に生まれる
	明治大学農学部卒業
1969年	作陶を志す
1971年	備前・伊部に穴窯を築窯
1972年	同地に登窯を築窯
1975年	桂又三郎に師事、古備前の窯跡調査に同行
1978年	オーストリア国立民族博物館で二人展開催
1991年	牛窓・阿弥陀山に新たに穴窯を築窯
2000年	日本陶磁協会賞受賞

岡山県出身の陶芸家・原田拾六氏は、昭和16年生まれ。明治大学農学部を卒業後、農学とはまったく異なる道、つまり「土と火の芸術」に心を傾けはじめます。それが昭和44年、29歳の時のことでした。

最初に築いたのは、備前焼の聖地・伊部に構えた穴窯。そして翌年には登窯も築き、焼き物の世界に本格的に踏み込みます。焼成の拠点を牛窓・阿弥陀山へと移したのは平成3年のこと。今もそこで年に一度ずつ、穴窯と登窯を交互に焚いています。

原田氏の陶芸人生における最大の出会いは、古備前研究の第一人者として知られる桂又三郎氏との師弟関係でしょう。桂氏は徹底した現場主義を貫く骨太な研究者で、70代半ばの年齢ながら、原田氏を連れて十年以上も古備前の窯跡調査に同行。発掘現場での実地研究は、原田氏にとって何にも代えがたい財産となりました。

作品づくりにおいて原田氏がもっとも大切にしているのは、「土の力を信じること」。彼の土作りは、水簸をせず、石を取り除いただけの原土をそのまま使うというものです。轆轤（ろくろ）は用いず、古備前の名品と同様に紐作りで成形。こうすることで、土本来の持つ生命力や味わいが損なわれることなく、作り手の意思も自然と作品ににじみ出てきます。

燃料には松割木を主に用い、そこに雑木を加えて火勢のバランスをとる。穴窯も登窯も、焼成には約20日をかける長丁場です。ゆっくりと火を通すことで、深く内側から湧き出るような色味や質感を生み出す。原田作品の持つ、あの奥ゆかしさは、こうした丁寧な工程に支えられているのです。

特に好んで作るのは、擂鉢や種壺などの「見立ての茶道具」。形式にとらわれず、古の美意識を今の暮らしに結びつける器の数々は、使う人の想像力を掻き立てます。

原田氏の作風は、古備前の再現にとどまりません。豊かな土味、野武士のような力強さ、そして何よりも作品に宿る生命のような躍動感。それはまさに、古備前に学びながらも新たな創造を生んだ証といえるでしょう。

平成12年には日本陶磁協会賞を受賞。オーストリアでの二人展をはじめ、国内外での個展活動を通じて、今もなお高い注目を集めています。

自然と対話しながら、土の声に耳を澄ませ、火のゆらぎを見つめ続ける陶工・原田拾六。その作品は、焼き物の枠を超えて、心の奥に静かに響く“生きた芸術”といえるかもしれません。

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