永樂即全の略歴（Eiraku sokuzen）

1917年	京都市に生まれる
1933年	父・正全の急逝により16歳で家督を継ぐ
1935年	十六代永樂善五郎を襲名
1937年	三井高棟の別邸にて作陶を開始
1937年～1945年	戦中まで城山窯で色絵・交趾・金欄手などの茶陶を制作
1958年	『源氏物語』五十四帖に因んだ茶器54点を発表
1960年	京都伝統陶芸家協会を結成、初代会長に就任
1986年	京都市文化功労者に認定される
1989年	京都府文化賞特別功労賞を受賞

京都の陶芸界には、古来より受け継がれてきた様式美を基盤にしながらも、現代的な感性や個性を融合させた多彩な作品が生まれています。そのなかでもひときわ注目されるのが、茶陶の名門・永樂家の十六代目を継いだ永樂即全です。

即全は1917年、京都に生まれ、1933年、父・正全の急逝を受けて16歳で家督を継ぎました。そして昭和10年には十六代善五郎を襲名。若くして家を背負うこととなった即全ですが、その作陶家としての本格的な歩みは、祖父・得全が果たせなかった夢――神奈川県大磯の三井家別邸「城山山荘」における作陶――から始まりました。

昭和12年、三井邸内の登り窯で始まった作陶活動では、色絵・交趾・金欄手といった華やかな技法を用いた花入や香炉などの作品が生まれ、同時に三井家が所蔵していた名品陶磁器の研究を通じ、茶陶の深い精神性を学び取りました。

戦後の混乱期、物資が乏しい中でも作陶を再開した即全は、やがて茶道界の復興と歩みを共にしながら、和風の意匠と調和した交趾釉、琳派様式の色絵、優美な金欄手などを取り入れた作品群を次々と発表。伝統に根ざしながらも、現代的な感性を映し出すその作品は、「現代に生きる茶陶」として高い評価を受けました。

なかでも大きな注目を集めたのが、昭和33年に発表された『源氏物語』をモチーフとした五十四点の茶器シリーズです。各巻を象徴する意匠を施した茶壺・茶碗・香合などの器は、単なる鑑賞品ではなく、実際に茶の湯で使うことを前提に設計された、用と美が見事に融合した作品群でした。古典文学の世界を視覚的に再現し、茶道具としての機能性を損なうことなく表現したこの大作は、即全の代表作にして、生涯最大の事業とも言われています。

また即全は、京焼の巨匠・野々村仁清や尾形乾山の作風に学び、平安王朝の文学や文化に親しむことで、作品に深い教養と雅な世界観を反映させていきました。その背景には、千年の都・京都で育まれた精神文化や自然へのまなざし、四季折々の美を慈しむ心が色濃く息づいています。

即全は、1960年に京都伝統陶芸家協会を設立し初代会長に就任。1986年には京都市文化功労者、1989年には京都府文化賞特別功労賞を受賞するなど、その功績は高く評価されました。

六十年にわたる創作活動の中で、茶陶の「用」の美と京焼の「装飾美」を融合させ、新たな茶道具の世界を切り拓いた永樂即全。その作品には、伝統を尊びつつも常に前を向く職人魂と、京都の美意識の結晶が宿っています。

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